私は安城という町の駅から少し離れたビルの1階に存在する、カウンターのみの10席ほどしかない小さなBarでございます…
~第71章(71杯目)~
何年か前に、4人組の若い女性のお客様がよく来店されていました。4人は同じ職場のようで、いつも仲良く飲まれていたのを覚えています。
彼女たちはお酒がとても強く、好みもとてもはっきりしていて、その中のおひとりはカンパリという苦いリキュールだけをシェークした”カンパリシェカラート ”を必ず1杯目に飲まれていました。
いつも仲良く4人で飲まれていましたが、年頃になり、ご結婚によって、ひとり…またひとり…と一緒に飲む人数が減っていき、最後はひとりになってしまいました。
それからもその女性はたまにおみえになって”カンパリシェカラート”をひとり飲んでおられました。
とある夜、久しぶりに4人がご一緒におみえになりました。マスターが「同窓会みたいだね」と言うと、女性は”カンパリシェカラート”を飲みながらとても嬉しそうにうなずいていました。
彼女にとって苦いはずのカンパリもこの日だけは少し甘く感じたかもしれませんね。
【カンパリシェカラート】
イタリアの苦味酒のカンパリだけをシェークするカクテル。シェークすることによりカンパリがキリッと冷たく、そして口当たりは柔らかくなります。
文:本間太郎
Read More